
体調を崩したときや健康診断を受けたいとき、私たちは「病院」や「クリニック」といった医療機関を受診します。しかし、この二つの違いについて、明確に説明できる方は意外と少ないのではないでしょうか。どちらも医療を提供する場所であることに変わりはありませんが、それぞれに異なる役割と特徴があります。
例えば、「病院」は、一般的に規模が大きく、より専門的な治療や高度な医療設備が整っている傾向があります。大学病院や総合病院がその代表例です。
一方、「クリニック」は、地域に密着した「かかりつけ医」としての機能を持つことが多いです。風邪やインフルエンザなどの日常的な病気に利用するのではないでしょうか。
この記事では、病院とクリニック、それぞれの定義、役割、料金システム、そして形態について詳しく解説し、皆さんが自身の状況に最適な医療機関を選択できるよう、その違いを明確にしていきます。
目次
病院とは?

「病院」とは、医療法によって20床以上の入院施設を持つ医療機関と明確に定められています。
病院の主な特徴
■ 病床数
20床以上の入院患者用のベッドを有します。病床の種類には、一般病床、療養病床、精神病床、感染症病床、結核病床の5種類があります。
■ 規模とスタッフ数
- 病院は規模が大きく、入院施設として20床以上(「総合病院」の場合は100床以上)のベッドが必要です。
- 医師は最低3名以上が必要で、外来患者40人に対し医師1人、入院患者16人に対し医師1人の割合が求められます。
- 看護師、准看護師、看護補助者に加え、薬剤師、栄養士、放射線技師、作業療法士、理学療法士など、診療科ごとに適切な医療行為が行えるよう専門スタッフの配置が義務付けられています。
■ 構造設備
病院には、各科専門の診察室、手術室、処置室、給食施設など、細かい必置施設や病床面積に関する規定が設けられています。
病院の主な役割
■ 病院の役割
緊急搬送の対応や難病・重症の治療といった高度な医療技術や医療行為を提供する医療機
関です。
- 主に入院中心の医療、急性期医療、専門診療を担います。
- MRIやCTなどを用いた精密検査も病院の役割の一つです。
- 軽症の患者は「かかりつけ医」である診療所を利用し、必要に応じて紹介状を持って病
院を受診するという機能分化が推進されています。
診療報酬と料金システム
2006年の診療報酬改定以降、初診料はクリニックと均一ですが、診療所などからの紹介状を持たずに受診すると、初診料の他に「特別料金」(選定療養費)が請求される場合があります。これは、軽症患者の診療所利用を促進し、重症患者が病院を受診できるようにするための制度です。
診療内容が同じであれば、診療報酬の点数表はクリニックと共通です。
病院の種類
病院は、医療法で規定されている医療施設(医療機関)の4種類のうちの1つです(その他は診療所、助産所、薬局)。さらに、特定の要件を満たすことで以下の種類に分類されます。
- 総合病院
患者100人以上の収容施設を有し、内科、外科、産婦人科、眼科、耳鼻いんこう科を含む診療科を持ち、設備の諸規定を満たし、都道府県知事の承認を得ている病院です。 - 特定機能病院
高度な医療技術の提供、開発、研修を行う能力を備え、厚生労働大臣から個別に認可された病院です。400床以上の病床や特定の要件を満たす必要があります。 - 地域医療支援病院
地域医療を担うかかりつけ医などを支援する能力を備え、都道府県知事から個別に認可された病院です。200床以上の病床を有し、紹介患者中心の医療を提供します。 - 臨床研究中核病院
国際水準の臨床研究や医師主導治験の中心的役割を担うことを厚生労働大臣から認可された病院です。 - 精神病院
精神病床のみを有する病院です。 - 一般病院
上記に該当しない病院です。 - がん診療連携拠点病院
地域のがん医療水準向上や連携強化、患者への相談支援・情報提供に取り組む病院です。 - 救命救急センター
一次・二次救急では対応できない重篤患者の治療を担う病院です。 - 周産期母子医療センター
周産期における母体や胎児の救急対応を担う病院です。 - 回復期リハビリテーション病棟
急性期治療を終えた患者の心身の回復に努める病院内の施設です。 - 地域包括ケア病棟
急性期を脱した患者の日常生活復帰支援や、在宅療養中の緊急入院を受け入れる病院内の施設です。 - 在宅療養後方支援病院
在宅で療養している患者の緊急時の入院を支援する病院です。 - 救急指定病院
救急医療対応を都道府県から認定された病院です。 - DPC対象病院
DPC制度を導入している病院です。

こうやって調べてみると、ご自身やご家族の通院、あるいは就職先としての医療機関選びの参考になりますね。
クリニックとは?

「クリニック」の定義は、日本の医療法において明確に定められており、一般的には「診療所」という名称で呼ばれる医療機関を指します。
クリニックの主な定義
■ 病床数による定義
「クリニック」(診療所)の最大の定義は、患者を入院させるための施設を持たないか、または19人以下の患者を入院させるための施設を有する医療機関であることです- 20床以上の入院施設を持つ医療機関は「病院」と区別されます
- 診療所は、入院施設を持たない「無床診療所」と、19床以下の入院施設を持つ「有床診療所」に大別されます
- 診療所に設置できる病床の種類は、「一般病床」と「療養病床」の2種類に限られています
■ 医療法上の名称
医療法に明記されている正式名称は「診療所」です。しかし、「クリニック」や「医院」といった呼び名は、より親しみやすい名称として広く使用されています。
診療所に分類される医療機関は、いかなる場合でも「病院」という名称を使用することはできません
■ スタッフの数と配置
- 診療所は、原則として医師が1人いれば開業可能です。
- 病院とは異なり、医師や看護師の数に関して特に明確な規定がない場合がありますが、有床診療所で「療養病床」を設置している場合は、患者4人に対して看護師1人の配置が必要です。また、入院施設がある場合は、看護師、准看護師、看護補助者が必要です。
- スタッフの数が少ないため、医療事務のスタッフが受付・会計業務やレセプト業務など、幅広い業務を兼任する傾向にあります。看護師の補助業務を行うこともあります
クリニックの主な役割
■ 役割と機能
- クリニックは、主に一般的な外来診療が中心であり、地域の「かかりつけ医」としての役割を担います。
- 軽い病気や怪我、慢性疾患の治療、日常的な健康管理、体調不良やケガなどの初期診療が主な役割です。
- 精密検査や高度な医療技術が必要な場合は、「紹介状」(正式名称:診療情報提供書)を発行して患者を病院へ紹介します。これは、地域医療の機能分化を推進し、重症患者が病院で適切な治療を受けられるようにするためです
料金システム
2006年の診療報酬改定以降、初診料は病院とクリニックで均一になりました。
しかし、クリニックは、診療所などからの紹介状を持たずに受診した場合に大病院で請求される「特別料金」や「選定療養費」を加算することはありません
クリニックの形態
■ 構造設備
病院に比べて構造設備に関する規制が緩やかです。例えば、一般病床を設置する場合でも、診療所では「消火用の機械または器具」のみが必置施設として規定されています(病院は各科専門の診察室や手術室なども必要)
■ 運営と勤務形態
クリニックの多くは日中のみの診療時間であり、勤務形態も日勤が中心で、定休日が固定されている場合が多いです。
クリニックの開業医は、日々の診療に加え、経営者として労務管理、採用、広告運用、行政手続きなど、幅広い経営業務も担当します。
近年、無床診療所の施設数は増加傾向にありますが、有床診療所は減少傾向にあります

こうしてみると、クリニックは地域に密着し、患者にとって身近な医療を提供する役割を担っていることが分かりますね
まとめ
「病院」と「クリニック」はどちらも医療機関ですが、日本の医療法に基づき、その定義や役割、機能には明確な違いがあります。これらの違いを理解することで、症状に応じた適切な医療機関を選び、スムーズな受診が可能になります。
以下に、病院とクリニックの主な違いをまとめます。
■ 病院とクリニックの主な違い
1. 病床数による定義
病院は、20床以上の入院施設を持つ医療機関と定められています。病床の種類には、一般病床、療養病床、精神病床、感染症病床、結核病床の5種類があります。
クリニック(正式名称は診療所、または医院とも呼ばれる)は、患者を入院させるための施設を持たないか、または19人以下の患者を入院させるための施設を有する医療機関を指します。診療所に設置できる病床は、「一般病床」と「療養病床」の2種類に限られています。
2. 役割と提供する医療
病院は、主に高度な医療技術や医療行為を提供する役割を担います。緊急搬送の対応、難病や重症の治療、急性期医療、専門診療、精密検査(MRIやCTなど)が中心です。
クリニックは、主に一般的な外来診療が中心であり、地域の「かかりつけ医」としての役割を担います。軽い病気や怪我、慢性疾患の治療、日常的な健康管理、体調不良やケガなどの初期診療が主な役割です。
3. スタッフの数と配置
病院は規模が大きく、医師は最低3名以上(外来患者40人に1人、入院患者16人に1人)が必要とされ、看護師、准看護師、看護補助者に加え、薬剤師、栄養士、放射線技師、作業療法士、理学療法士など、診療科ごとに専門スタッフの配置が義務付けられています。部署ごとに分業制が採用されていることが多いです。
クリニックは、医師が1人いれば開業が可能な場合がほとんどです。スタッフの人数が少ないため、受付・会計業務やレセプト業務など、幅広い業務を兼任する傾向があります。看護師の補助業務を行うこともあります。
4. 構造設備
病院は、各科専門の診察室、手術室、処置室、給食施設など、必置施設や病床面積に関する細かい規定が設けられています。
クリニックは、構造設備に関して病院ほど厳重な規制が設けられていません。例えば、一般病床を設置する場合、病院では多くの必置施設が規定されていますが、診療所では「消火用の機械または器具」のみが必置施設として規定されています。
5. 料金システムと紹介状
2006年の診療報酬改定以降、初診料は病院もクリニックも均一になりました。
しかし、診療所などからの紹介状(正式には「診療情報提供書」)を持たずに病院(特に200床以上の大病院)を受診すると、初診料の他に「特別料金」(選定療養費)が請求される場合があります。これは、軽症患者の診療所利用を促進し、重症患者が病院で適切な治療を受けられるようにするための制度です。紹介状があれば、検査の重複を避け、スムーズな受診につながります。
6. 勤務形態と給与
病院(総合病院や大学病院など)は、入院病棟や救急外来があり24時間体制で稼働していることが多いため、日勤だけでなく夜勤業務がある可能性があり、シフト制の勤務形態が多いです. 福利厚生や昇給などの待遇が良く、夜勤手当や資格手当、賞与がクリニックよりも多い傾向にあります。
クリニックは、たいてい日中だけの診療時間となっており、勤務形態は日勤が多く、定休日が固定されている場合が多いです. 給与額は病院に比べて少なめの場合が多いですが、クリニックによって福利厚生や手当に差があるため、事前の確認が重要です。

この違いをみると、その時の病状にもよりますが、「まずはかかりつけのクリニックを受診し、必要であれば紹介状を持って病院へ行く」というのが良いような気がしてきました